社会不適合者の主人公(女性)が,「コンビニ店員」という仮面をかぶり,
演じているときだけ社会に適合できるというお話。
子供の頃,男子の喧嘩「誰か止めて!」という声を聞き,スコップでその男子の頭をかち割って「喧嘩止めた」「何が悪いの?」という生粋の社会不適合っぷりも,なぜか共感してしまうのはその一貫した論理性・合理性のため,
それから人間誰しも,この主人公のような「社会不適合性」を持っているからでしょう。
純粋に合理的にものごとを見始めたら,世の中不合理なことばっかりですからね。
そんな「人間的感性」を持たない主人公 恵子。
人間社会でどう振る舞えばよいのか,全く見失ってしまっていた恵子を救ったのは,大学生のときに始めた「コンビニ店員」という仮面でした。
「コンビニ店員」という,役割の決まった役を演じることで,人間社会の一部となれる満足感を得る恵子。
またそこでの人間関係から,もちまえの合理性を発揮して,人間社会での振る舞い方も学習していきます。
しかし,20代の頃はうまくいっているかのように見えた「コンビニ人生」戦略もゆきづまってきます。
「36才・独身・ずっとコンビニバイト ・恋愛経験なし」では,どうやら社会に適合しているとは言えず,周囲の人を困らせていることに気づきます。
そこで恵子は,常人には理解しがたいことをやり始めるのですが・・・
芥川賞受賞の本作。ぼくは作者が「現役でコンビニバイトをしてる」という話を聞いてこの本に興味を持ったので,正直「主人公は作者自身を反映したキャラクタなのかな」と思っていたのですが・・・
まぁ~この主人公キャラには,人の心をつかむ小説を書くことは無理ですな。不適合ですから。
ターニングポイントを迎えた恵子の人生に絡んでくるのが,さらに上を行く社会不適合者の白羽という男。
35才,典型的な,文句ばかりで役に立たないクズ人間です。
底辺底辺と見下しているコンビニバイトの仕事すらまともにできないばかりか,客にストーカーまがいの行為をしてすぐにクビになります。
普通なら,こんなクズ人間とは関わりません終わり。なんですが,恵子の見方は違いました。
恵子の,この男への接し方は,さすがに共感できなくなってきます。
といっても,クズであることはわかってるし,同類だから温かい目で見ている,とかでもなく,
なんというか「関わらないほうがいい」っていう感性がかけてるんですよね・・・
でも,だからこそ,「人間のクズにこうやって接したら,何が起こるんだろう」と,ワクワクしてきます。
今まで誰とも関わってもらえなかった人が,関わってもらえるようになった。
クズ人間は変わることができるのだろうか?そしたら主人公も影響を受けて変わるのかな??
「コンビニ」という,超身近な場所が題材なんで,異世界感は全然期待してなかったんですが,
とにかくこの「クズ人間の見方」が,ぼくにとってはものすごく新鮮で,常軌を逸した斬新な視点でした。
自分であれば,たとえクズ人間に興味をもって接することがあったとしても,入籍を提案するまでのことはまあ無理ですからね。そこまでやったらどうなるのか。
結果は納得の結末です。
クズ男白羽自体がイライラさせるうえ,
主人公の接し方が生ぬるくて,読んでてさらにイライラしてくるんですが,
そんな読者の声を「白羽弟の嫁」が代弁してくれます。
ボロカス言ってくれて爆笑できる反面,自分の中の「社会不適合」な部分がチクチクして,
なんとも新鮮な面白さでした。